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キア・スターマー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サー・キア・スターマー
Sir Keir Starmer
生年月日 (1962-09-02) 1962年9月2日(61歳)
出生地 イングランドの旗 イングランドロンドンサザーク区
出身校 リーズ大学オックスフォード大学、セント・エドムンド・ホール
前職 弁護士
検察局長官
所属政党 労働党
配偶者 ビクトリア・アレクサンダー
公式サイト keirstarmer.com

在任期間 2020年4月4日 -

イギリスの旗 影の欧州連合離脱大臣
在任期間 2016年10月6日 - 2020年4月4日

イギリスの旗 影の移民大臣
在任期間 2015年9月14日 - 2016年6月27日

選挙区 ホルボーンとセント・パンクラス選挙区
当選回数 3回
在任期間 2015年5月7日 -

在任期間 2008年11月1日 - 2013年11月1日

その他の職歴
第22代 労働党党首
2020年4月4日 - 現職)
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サー・キア・ロドニー・スターマー: Sir Keir Rodney StarmerKCB1962年9月2日 - )はイギリス政治家弁護士。現イギリス労働党党首。

来歴[編集]

党首になるまで[編集]

ロンドン中心部のサザーク出身。工具製作者の父と看護師の母の元に、サリー州のオクステッドにて育つ。両親ともに労働党の支持者で、名前のキアは労働党創設者の一人のケア・ハーディから取られた。10代の頃から労働党員として活発に活動。1985年、リーズ大学にて法学士、1986年、オックスフォード大学にて民法学士(修士課程)を修了。 弁護士からイギリスの検察局長官まで上り詰めた後政治家へ転身。2015年ロンドンのホルボーン・アンド・セント・パンクラス選挙区に出馬し下院議員となった。ジェレミー・コービンが組織した影の内閣に3年以上在籍したが、自身は社会主義者はあるもののコービンの支持者ではないとしている。影の内閣ではイギリスの欧州連合離脱に関連した政策などを担当。親EUの姿勢を示した[1][2]

2019年イギリス総選挙で労働党が大敗すると、コービンが労働党党首を辞任。スターマーは後任を決める党首選挙に立候補し1990年代以降民営化されていたイギリスの鉄道ロイヤルメール水道の再国有化や反労働組合法の撤回など、コービン党首時代の主要政策を踏襲する10の公約を掲げた。党首選挙ではコービンの後任と目されていたレベッカ・ロング=ベイリー下院議員らを大差で破り、党首に就任した。

党首就任後[編集]

党首就任後に行った影の内閣の人事では、元労働党党首であるエド・ミリバンドを影のエネルギー・気候大臣に、レイチェル・リーヴスを影の財務大臣に任命した。

同国内で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、保守党政権とも建設的に協力すると表明し、ユダヤ人社会に対しては労働党内に広がっていた反ユダヤ主義を謝罪した[3]

2023年10月10日、労働党の党大会がリヴァプールで開かれるも、スターマーが演説を始めようとした際抗議者が壇上に乱入し、グリッター(きらきら光る細かい粒)を振りかけ「真の民主主義」と「危機」について叫んだ。抗議者はその後、ステージから引きずり降ろされた。スターマーは、「これで私が困ると思うなら、彼は私を知らない」と述べ、上着を脱いでスピーチを続行した[4]

2021年以降、ジョンソントラススナクの3代に渡って続いた保守党政権の混乱などによって、労働党は各種世論調査で保守党に大差を付けてリードしている。[5]

2024年の総選挙でスターマーは、同選挙は「変化の機会」だと述べ、有権者が労働党に投票すべき3つの理由を挙げた。第一に「混乱を止めるため」、第二に「変化の時だから」、そして第三に労働党には「準備が整っており、費用も資金も十分に用意された、英国再建の長期計画」があるからだとした。6月13日、労働党はマニフェストを発表し、経済成長、計画システム改革、インフラ、いわゆる「クリーンエネルギー」、医療、教育、育児、労働者の権利強化に焦点を当てた。

政策・主張[編集]

スターマーの政治的態度は不明瞭で「定義しにくい」と評されることがある。当初、自ら「社会主義者」と称し、コービン党首時代の政策の踏襲を掲げたことから、「穏健左派」(Soft Left)と見られていた[6]。しかし、その後は産業政策を軟化、金融業界を取り込む姿勢に転換し、トニー・ブレア元首相が掲げた親ビジネスの中道路線へ労働党を回帰させた。[7]。2023年の影の内閣改造で、ほとんどのアナリストは、スターマーが党内で右派に移行し、穏健左派の人々を降格し、ブレア派に置き換えたと結論付けた。

内政[編集]

スターマーは、公共機関の改革、地方主義、権限委譲を繰り返し強調してきた。またスターマーは、保守党の指導者らが貴族の称号を「従僕や寄付者」に与えてきたと述べた上で、貴族院を廃止し直接選挙で選出される上院に置き換えることを公約している。[8]

スターマーは、国民保健サービス(NHS)を含む英国の公共サービスへの社会的所有と投資を支持している。2020年の労働党党首選挙では、所得上位5%の所得者への所得税増税と法人税回避の廃止を約束したが、2023年には所得税の公約を撤回した。社会的不平等については、スターマーは健康、不平等、ホームレス、環境に関する国のパフォーマンスを測定する「国家幸福指標」を提案している。また、英国のユニバーサル・クレジット制度(イギリスの社会保障の一種)の「見直し」を求めている。 

外交[編集]

「違法な戦争」の終結と英国の武器輸出の見直しを主張している。党首選の中で彼は、下院の支持を得た場合にのみ合法的な軍事行動を認める軍事介入防止法を制定すると公約した。 スターマーは人権侵害に関与した中国当局者に対する制裁を求めた。また、イエメンでのサウジ軍事作戦に使用されたサウジアラビアへの英国の大規模な武器販売を承認し、同国の人道危機を深刻化させたとしてジョンソン政権を批判した。[9]

スターマーは、核抑止力としてイギリスの核兵器を維持することを支持し、トライデント計画の更新に賛成票を投じた。[10]また、冷戦後のイギリスの核兵器備蓄の段階的な削減政策全般を支持している。

2021年、スターマーはイスラエルは「国際法を尊重しなければならない」と述べ、イスラエル政府に対し、パレスチナ指導者と協力してイスラエル・パレスチナ紛争の緩和に努めるよう求めた。スターマー氏はイスラエルの入植地ヨルダン川西岸地区の併合案、イスラエル占領地における「パレスチナ人の立ち退き」に反対している。スターマーはまた、再生可能エネルギーを推進するための「逆OPEC」の創設への支持を表明している。2023年6月にパレスチナ駐英代表団長フサム・ゾムロット氏と会談した際、スターマーは2024年の総選挙で労働党が勝利した場合、パレスチナ国家を承認すると改めて約束した。 2024年1月、スターマー氏は将来の労働党政権はパレスチナを多国間の和平プロセスの一環として承認するだろうと述べた。

ロシアのウクライナ侵攻前、スターマーはNATO事務総長イェンス・ストルテンベルグと会談し、労働党前党首のジェレミー・コービンがNATOを批判するのは「間違い」であり、労働党のNATOへの関与は「揺るぎない」ものだと述べた。さらに、「イギリスは団結しよう...ボリス・ジョンソン政権とどんな困難に直面しても、ロシアの侵略に関しては我々は団結する」と付け加えた。スターマーはロシアに対する「広範かつ強力な」経済制裁を求めた。[11]また、ガーディアン紙の論説で戦争反対連合を批判し、同連合のメンバーは「平和を訴える善意の声ではなく」むしろ「良く言っても世間知らず、最悪の場合、民主主義を直接脅かすロシアのプーチン大統領のような権威主義的指導者を積極的に支援している」と書いた。 2023年2月、スターマーはウクライナウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、ロシアのウクライナ侵攻中に同国を支援することを約束し、首相に就任してもウ​​クライナ戦争に関するイギリスの立場は変わらないと述べた。[12]また、プーチン氏を含むロシアの指導者らが人道に対する罪でハーグで裁かれるよう求めた。スターマー氏は、プーチン氏が国際刑事裁判所で起訴された後、プーチン氏に対する逮捕状が発行されたことを支持した。

人物[編集]

退屈やカリスマ性がないと評されることがある一方で、雄弁で謙虚な性格だと評価されることもある[13]

妻は2007年に結婚したビクトリア・アレクサンダーである。夫婦の間に2人の子供がいる。

脚注[編集]

  1. ^ 英労働党、新党首にキア・スターマー氏を選出”. BBC (2020年4月5日). 2020年4月4日閲覧。
  2. ^ 英労働党、新党首にスターマー氏…「党の信頼取り戻す」”. 読売新聞 (2020年4月4日). 2020年4月4日閲覧。
  3. ^ 英労働党、新党首にキア・スターマー氏選出”. AFP (2020年4月4日). 2020年4月4日閲覧。
  4. ^ “英労働党党首にきらきらグリッター振りかけ……党大会に抗議者乱入”. BBC NEWS JAPAN. (2023年10月11日). https://www.bbc.com/japanese/video-67074324 2023年10月12日閲覧。 
  5. ^ Britons now think that Labour will win a majority at the next election | YouGov” (英語). yougov.co.uk. 2024年6月17日閲覧。
  6. ^ Bienkov, Adam Payne, Adam. “Keir Starmer wins the Labour leadership contest and vows to unite the party”. Business Insider. 2023年5月19日閲覧。
  7. ^ 労働党への政権交代が英市場に最善、現政権に厳しい評価-MLIV調査”. ブルームバーグ. 2023年9月19日閲覧。
  8. ^ “Labour would abolish the House of Lords” (英語). (2022年11月20日). https://www.bbc.com/news/uk-politics-63692981 2024年6月17日閲覧。 
  9. ^ Boris Johnson attacks Keir Starmer for asking about Yemen aid cut” (英語). The Independent (2021年3月3日). 2024年6月17日閲覧。
  10. ^ “Jeremy Corbyn was wrong on Nato, says Sir Keir Starmer” (英語). (2022年2月10日). https://www.bbc.com/news/uk-politics-60333340 2024年6月17日閲覧。 
  11. ^ Sabbagh, Dan; Defence, Dan Sabbagh; editor, security (2022年1月25日). “Johnson hints German reliance on Russian gas could affect Ukraine response” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/politics/2022/jan/25/johnson-hints-german-reliance-on-russian-gas-could-affect-ukraine-response 2024年6月17日閲覧。 
  12. ^ “Keir Starmer meets Ukraine's President Zelensky in Kyiv” (英語). (2023年2月16日). https://www.bbc.com/news/uk-politics-64668096 2024年6月17日閲覧。 
  13. ^ 次のイギリス首相に“最も近い男”スターマー氏は退屈な男なのか?総選挙は「2024年秋」と専門家予想”. FNN. 2024年1月1日閲覧。

外部リンク[編集]